Takamatsu Jr. Club ~ドッジボールクラブ~ 第弐ブログサイト

屋島で頑張っているJ.D.B.A.(一般財団法人日本ドッジボール協会)登録のドッジボール・クラブです!

ドッジボール・ラノベ『飛球少年』 その壱 ~衝撃~

(何だあのドッジボール……)
俺は息を呑んだ。
今までしてきたドッジボールと何一つ異なる。
何より違うのは、勢い、いや空気だ。
「止めろ!!!」
「「「うぉーーっす!!」」」
体育館に反響する何人もの声。
俺は、今までやったことあるドッジボールで最後に残ることは多かった。
俺は最後までボールを避けきり、1人残る事のできる自分、それを自慢のごとく思っていた。
だが、何だ。目の前で行われているドッジボールであるはずのスポーツは、どいつもボールに食いかかるかのように、それはまるで獲物を狙うライオンの如しだった。
そして相手コートからのボールは、一列に並んでいた彼らの内の1人の胸に飛び込んだ。何だこの高揚感。思わず見ていただけの俺まで拳を握っていた。
「おい、腰が高い。しっかり落とせ。」
笛が鳴ったと思うと、コーチらしき人がボールを持った少年に声をかける。
「すみません!!次、お願いします!」
そして、すぐに再開されるボールの応酬。俺はもうその場から動けず、ひたすら体育館を外から眺めて、心躍らせていた。

俺は家に帰り、すぐ母さんを呼んだ。
「なぁ!ドッジボールのスポーツクラブなんてあったっけ?」
母さんはキッチンにいた。
「ちょっと、隆太!"ただいま"くらい言いなさい。
それに、もう6時じゃない。あんたどこ行ってたのよ。」
「だからー、ドッジボールのスポーツクラブはあるのか、ってば!!」
興奮したまま、息せき切ったように問い詰めると、母さんは諦めて答えた。
「同じマンションに住んでる陽平君いるでしょ。
その子がクラブに入ってるらしいわよ。」
そんな話、したこともないし、俺は陽平と同じクラスで、たまに一緒に帰ることもあったのに何も聞いてない。
ただ、今思えば遊びに行こうと誘ったときに、用事があると何度か断られたことを思い出した。
「なんで俺に言ってくれねーんだよ!
俺、そんなのあるとか知らなかったじゃんか!!」
「あんた、スポーツとか興味なさそうに、いつもゲームばっかりしてるじゃない。」
小学5年になってから、友達とはゲームの話で盛り上がっていた。
だから、確かに俺はスポーツなんて頭には無かったし、考えたこともなかった。
だが、今日目にしたあの光景、そしてあの中に俺が居ないことが悔しくてしょうがなかった。

そして俺は夕食を食べて風呂に入った後、すぐに陽平の家に電話をかけた。
何コールかしてからようやく、
「もしもし?」
陽平のお母さんの声がした。
俺は、とにかく陽平と急いで話をしたかったので、少し慌てたように返事をした。
「あの、こんばんは。田崎隆太です。陽平君、居ますか!!」
少し間があって、お母さんは「あら、隆太君。こんばんは。ちょっと待ってね。」と言って、保留音に切り替えた。
そして、陽平が出てきた。
「はい、陽平やけど。隆太?」
「おい、陽平!お前、ドッジボールのクラブ入ってるんだろ!!」
「え?何?どしたん?入ってるけど…」
ぽやっとした性格の陽平に、少しイライラしながら本題を伝える。
「俺も入りたいんやけど!!」
陽平は、電話の向こうで黙った。
「おい!陽平!?俺もドッジボールしたいんやって!どうしたらいいん?」
「…あのさ、隆太の思ってるドッジボールと違うよ。
遊びみたいにするやつじゃないよ。」
「知ってる。今日見た。だから、俺もやりたい。ちゃんと真面目にするからさ!」
陽平は幼馴染みで、俺がしょっちゅう悪さしていたり、ふざけている姿を知っている。
だから、きっとそれを心配しているのだろう。
でも俺は決めていた。絶対にあの中に混ざると。
「クラブに入りたいなら、お母さんとかお父さんに話して、一緒にクラブにお願いに来たらいいと思うよ。僕もそうしたから。」
「そっか、わかった!じゃあな!」
そして、一方的に電話を切り、俺はビールを飲みながらテレビを見ている父さんに向かって大声で叫んだ。
「俺、ドッジボールのクラブに入りたい!!!」