ドッジボール・ラノベ『飛球少年』 その弐 ~初体験~
「おい、女子が居るじゃんか!」
体験日初日。
結局、父さんにクラブ入部について話をしたら、最初は断られた。だが、体験も可能だということで、体験してみて気持ちが変わらないようなら、もう一度考えてくれることとなった。
俺が飽き性で、中途半端に今までやってきたせいなんだろうな。
俺は家にあったTシャツと半パンを履いて、運動靴を手に持ち体育館に入った。
アップをしているメンバーの中に女子の姿を見つけたが、一人二人ではない。数えてみれば、男子と女子が半々ぐらいの人数で、みんなお揃いのTシャツを来ていた。
陽平は俺に、
「女子の方が強いよ、今は。」
そう言った。
「嘘、冗談やろ?女子が男子より強いわけないじゃん!」
俺はふざけて笑ったが、陽平は至って真面目な表情のまま、見てろと言わんばかりに俺の顔を見てメンバーの元に走っていった。
「ランニングー!用意!」
その掛け声に皆が集まり、俺は一番後ろの列に並んだ。
タイムを表示したボードがピーっと音を鳴らし、一斉に走り出した。
(楽勝じゃん、こんなん。俺、皆より速いし)
心の中で少し馬鹿にしつつ、とりあえず楽なペースでゆったりとついて行った。
しかし、そこから5分経っても皆は走り続ける。
しまいにはペースまで上がり、俺はもう息が上がって足も少し震えてきた。
「ラスト3周ー、ダッシュー!!」
先頭を走っていた6年生の先輩が大声を張り上げた。
すると、皆がまさかの全力で体育館を駆け回る。
俺は、ついていけないまま、結局皆が3周終わって体を揺らして待っている間に、ようやく3周走り終わった。
息は途切れ、汗は滝のように背中をつたった。
心配した陽平が俺の元へ駆けつけ、
「大丈夫?今日は無理せんで見よったらいいよ。」
と慰めたが、俺はたまらなく悔しかった。
俺よりドジで、ヘタレなはずの陽平に言われてムカついていた。
でも、返事が出来る程余裕がなく、悔しいが端っこに座って休むことにした。
皆がストレッチをしている間、俺は女子の方が強い、と言っていたことがまだ信じられなくて、じっと女子の様子を見ていた。
今のところ大して変わらないし、別に強そうにも見えない。
ストレッチも終わり、ようやくボールを使った練習をし始めた。
キャッチボールだ。俺は、これなら得意だと思い、一人余っていたメンバーと組んでやり合うことになった。
相手のボールは俺の手元にするっと入ってくる。
(うわ!俺、キャッチめっちゃ上手くね?)
そう思い、強さを見せつけるように、そのままボールを勢いつけて投げた。
しかし、ボールは相手からかなり外れた方向に飛んでいき、そいつは小走りに取りに行った。
(なんだよ!俺のが、キャッチうまいじゃん。
さっきの取れないとか、俺のボール強すぎたんかな。)
少し気分が上がってきて、そのままキャッチボールを続けた。
その後は一旦集合のホイッスルがかかり、メンバーはコーチの元に集まった。
俺は仮メンバーとして隅っこに立っていた。
「今日の練習は、陽平がリーダーになれ。
それと、花奈はもう一つのチームのリーダーだ。
練習チームの組み合わせはそこの紙に書いてあるから、確認してから10分休憩して始めるぞ。」
「「「はいっ!お願いします!!」」」
全員が返事をし、キビキビを動き始めた。
俺は、ぼけっと立ったまま、陽平がリーダーなんて出来るのかと心の中で笑っていた。