Takamatsu Jr. Club ~ドッジボールクラブ~ 第弐ブログサイト

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ドッジボール・ラノベ『飛球少年』 その肆 ~困惑~

俺は間違っていないはずだ。
でも、コーチが俺に告げた言葉にも間違いがないこともなんとなくわかる。
だが、俺は認めたくなかった。
キャッチボールすら出来ないなんて恥ずかしいこと、認められるはずがなかった。だって、投げられたじゃないか。
そう強く自分を肯定していた。
体育館を飛び出して、あれからもう30分くらいは経ったのではないだろうか。
俺は、体育館裏のフェンスにもたれて立っていた。
体育館の中からホイッスルの音が聞こえ、がやがやと喋り声が聞こえる。
もう練習は終わって帰っているのだろうか。
でも、俺は恥ずかしさにその場を動けなかった。
すると突然、
「隆太君。」
足元を見つめていた俺の頭上で、低く落ち着いた声が聞こえた。
びくっ、と体を震わせ、反射的に顔を上げると、そこにはコーチがいた。
「何を考えているんだい?」
コーチはそう聞きながら、俺と同じようにフェンスにもたれかかる。
コーチの体重でフェンスは少し軋んだ。
「俺、なんでキャッチボール出来ないって言われたのかわかんないです。
だって、ボール投げられてるし、ちゃんとボールだって取れてるもん。」
コーチは喋り終わった俺に、少し間をあけて返事をした。
「隆太君、そうじゃないんだ。
ボールを投げたり取ったりするだけがキャッチボールじゃないんだよ。
君はボールを投げる時、何を考えていた?」
「え?速く投げようと思ってた。
力いっぱい投げて、すっごい強い球を投げてやるって考えてたよ!」
コーチは俺の答えを聞いて、ははっと軽く笑った。
でも馬鹿にされてる感じはしなかった。
ただ、さっきまで冷たい人だと思っていたコーチが笑ったことに、俺は驚いた。
「あのな、僕はなんで隆太君がキャッチボールが出来ないか、理由がわかったよ。ドッジボールはね、仲間と一緒に頑張るものなんだ。
だから、投げるときでも相手に思いやりを持たないといけないんだよ。」
コーチは、さっきまでとは全然違う明るい声色で俺に伝えたが、俺にはさっぱりどういう意味かわからなかった。
「え、どういうこと?俺は何を間違ってるの?」
そしてコーチは言った。
「隆太君、君は今、自分のことばかり考えているだろう?
ボールを投げるとき、相手が取れるようにちゃんと見て投げてごらん。
まずはそれが出来るようになってからだ。」
そして、コーチは俺の頭をグリグリっと撫でて、そのまま俺を連れて体育館正面に戻ってきた。
玄関の所に父さんが迎えに来ていて、俺を待っていた。
俺が荷物をまとめて体育館を出た後、父さんはコーチと何か話していた。
そして、帰りの車の中、父さんは俺に明日は一緒にキャッチボールをしよう、そう言った。
俺はコーチに言われたことを頭の中で繰り返していた。
そして、そのまま家に着くまで車で眠っていたのだった。