Takamatsu Jr. Club ~ドッジボールクラブ~ 第弐ブログサイト

屋島で頑張っているJ.D.B.A.(一般財団法人日本ドッジボール協会)登録のドッジボール・クラブです!

ドッジボール・ラノベ『飛球少年』 その伍 ~キャッチボール~

次の日の朝、父さんは日曜日だからと、ちょっと遠出して大きな公園に俺を連れていった。

この公園は何度か来たことがある。
坂に沿っ て、長いローラー滑り台が設置されていて、俺はそれが大好きだ。
久しぶりに滑れると思い、滑り台の所へ走っていこうとしたが父さんにすぐ呼び止められた。
「隆太、今日はキャッチボールをするよ。
滑り台はその後で好きなだけ滑りなさい。」
父はボールを片脇に抱え、そのまま公園の中央に陣取る。
「ほら隆太、向こうに立って。
父さん、投げるから、ちゃんと取れよ。」
「えー、滑り台してぇよ。」
「父さんの手元にちゃんとボールを投げられたら、な。
ほらいくぞ!」
父さんのボールは俺の胸の中に飛び込んだ。
でも、俺は一歩も動いていないし、ボールを見ていなかった。
だが何故か、父さんのボールは引き込まれるように俺の元に飛んできた。
(あれ?)
俺は不思議に思った。
昨日、メンバーの一人とキャッチボールをした時も同じ感覚でボールが来た。
でも、その時は何も感じなかった。
なんだろう、この違和感。
それから、何度か投げ合いを繰り返していたが、俺が投げ返すボールは、父さんの体から離れた場所に飛んでいくばかりだった。
そして、父さんのボールはやっぱり俺の手元に飛んでくる。
「ねぇ、父さん、今のどうやって投げた?
俺んとこに、まっすぐ飛んできた。あれどーやるの?」
父さんは、俺の問いを待っていたかのように、
「昨日、コーチと話したんだって?
何を言っていたか思い出してごらん。」
「えー、ボールを良く見る…あ!投げる時、相手の事をちゃんと見る!」
「うん、そうだね。
父さんはそれをやってるだけなんだよ。
隆太がちゃんと取れるように、隆太のことをよく見て投げてるんだ。
隆太は、父さんのこと、見てくれてるか?」
「あんまり見てない…。投げたら飛んでくし…」
「でも、それじゃあ、父さんは取れないなぁ。
隆太、父さんに捕れるように投げてみてくれるか?」
俺は、父さんの立っている場所を見て、父さんの手を確認した。ボールを離してからも、ずっと父さんを見続けた。
すると、投げたボールは、父さんの正面からは外れていたが、父さんが手を伸ばせば余裕で届く距離に飛んでいた。
「隆太、近づいた!
ボール、父さん取れたぞ!
それにしても、隆太の球は強いな。
父さん、手が痺れたよ。」
そう言って笑う父さんだったが、俺は今まで味わったことのない感覚に戸惑っていた。
自分の投げた球は父さんに届いた、そのことが、俺にはとても気持ち良く感じられた。
目を見開き、思わず拳を握っていた。
「っやったぁぁ!!」