Takamatsu Jr. Club ~ドッジボールクラブ~ 第弐ブログサイト

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ドッジボール・ラノベ『飛球少年』 その拾壱 ~弱い心~

いつものようにランニングとストレッチを終え、キャッチボールの次は休憩を挟んでスクワットのはずだった。
でも、休憩が終わったとき、俺はコーチに呼ばれた。
何故かそこには陽平も待っていた。
「隆太君、今日からチーム練習に混ざってもらうよ。
どうやるのかは陽平君に聞いてくれ。陽平君、頼んだよ。」
「はい、コーチ。」
陽平は真剣な顔をコーチに向けて返事した。
最初から思っていたけど、陽平はドッジボールの練習になると、人が違うくらいに変わってしまう。
普段はのっぺりとした、背中に花畑でも見える感じな落ち着いた奴なのに、今は闘志みなぎる目をギラギラさせて、体からやる気のオーラを漂わせている。
俺はそんな陽平に、また負けたような気がして、悔しさに下唇を噛んだ。
(陽平になんか教わりたくねーな…。)
負けず嫌いな俺は、コーチには言えなかったけれど、心の中では陽平に教わることが不満でしょうがなかった。

「隆太、こっち来て。」
陽平に呼ばれて、歩いて近くに行くといきなり、
「隆太、呼ばれたら走って来るようにしないと。コーチだって見てるんだからさ。」
陽平に注意され、俺は、
(なんでお前に怒られなきゃいけねーんだよ!)
と叫びたくなった。でも、ここはぐっと堪えて、
「ごめん。気をつける。」
と小さな声で返事した。
ただ、気に食わないことばかりが重なり、イライラする気持ちがどんどん顔や態度に現れ始めた。
「こうやって一列に並んで、腰をしっかり落とすのが基本なんだよ。
腰が高かったり、お尻を突き出すような格好してたら、ボール来ても取れないからね。
……隆太、聞いてる?ねぇ、なんでそんなに怒ってんの?」
陽平の顔を見ないように、陽平の体の動きだけとりあえず見ていたら、ついに陽平にも勘づかれてしまった。
俺は言い訳を考えたけど、うまい言い訳が見つからなくて黙り込んだ。
「隆太、どうしたの?わからないところがあった?」
陽平は、気付いているのだろうが、あえて優しく言ってくる。
そんな陽平にすら、苛立ちを感じてしまう。
「そんなんじゃねー。わかってるよ、こうするんだろ!」
俺は、つい語尾に力が入り、陽平は少しその声に体がびくついていた。
「ご、ごめん。なんか僕、怒らせるようなことした?」
もう自分でも何が嫌なのか、何をそこまで怒っているのか訳が分からなくなってきた。
でも、陽平に対するライバル心が、陽平と俺との差を知ってしまってから制御が効かなくなってしまった。
「陽平、ごめん、ちょっとトイレ行ってきていい?」
俺はお腹を抑えて、痛みをアピールするような仕草をしたが、本当は何ともない。
「あ、お腹痛かったんだ。うん、早く行っておいでよ!」
陽平は、少しホッとしたような、それでも俺を心配する表情をしたままだった。
俺はそそくさと体育館にあるトイレに駆け込み、ある言葉を思い出した。
『もし練習をサボるような事があったら、わかってるね?』
父さんの言葉に俺は必死で、
(これは逃げたんじゃない、逃げたんじゃない。)
そう心で言い訳をするのが精一杯だった。
こんな自分の弱さに泣けてしまった。