Takamatsu Jr. Club ~ドッジボールクラブ~ 第弐ブログサイト

屋島で頑張っているJ.D.B.A.(一般財団法人日本ドッジボール協会)登録のドッジボール・クラブです!

ドッジボール・ラノベ『飛球少年』 その参 ~侮り~

休憩が終わり、俺以外はチーム練習に取り掛かった。
かという俺は、引率で来ていた誰かの母親とキャッチボールをさせられた。
(さっきもやったじゃん。つまんね。)
早くあのチームの中に混じり、俺がリーダーとして活躍したい、と気持ちに焦る。
だが、コーチは俺には目もくれず、ひたすらチーム練習の様子を見ていた。
俺は気を引いてやろうと思い、相手をしてくれている母親に向かって、わざと力を入れてボールを投げた。
方向は良かったのだが、案の定、その母親は受け取れず手に当たり、余計に遠くへ飛んでいった。
そして、慌ててボールを追いかけていった。
どうだ!と言わんばかりにコーチに目線を向け、にやりと笑ったが全く見向きもしない。
(やってらんね。こんなん、誰だって出来るし。)
母親がボールをようやく拾ってきて、途切れる息を落ち着かせながら、
「隆太君、ごめんね。おばさん、下手だから取れなくて。」
投げ返してきたヘロヘロな球は、俺の足元に転がってきた。
「おばさん。俺、休む。」
それだけ言って、ボールを持ったまま、壁に背を預け座り込んだ。
するとその時、目の前からとんでもない速さのボールが俺の真横に飛んできて、壁にぶつかり大きな音を立てて跳ね返った。
「しっかり狙え!」
途端にコーチの声が響く。
俺はあまりのボールの勢いにあっけを取られ、思わず「はいっ!!」と答えてしまった。
すると、俺の声と重なるように、女子の声が聞こえた。
「すいませんでした!」
てっきり、さっきのボールはコーチが投げたものだと思っていたのだが、いま返事をした女子が投げたようだった。
そして俺は思い出した。
『今は女子の方が強いよ。』
俺でもあんなに速い球を投げたことはないし、投げられるとも思えない。
それ程にあの子の球は速かった。
俺は思い知った。
完全になめきっていた。
でも女子なんかに負けてたまるか!と、俺の意地がむくむくと湧いてきた。
体が興奮して震える。
(俺、あれより速い球投げられたら…)
そして俺は行動に出た。
「コーチ!!俺も、あんな球を投げたいです。」
コーチの元へ走り、勢い余って前のめりになりながら話した。
しかし、コーチは目を向けるだけで、なかなか答えを返してくれない。
(なんだよ、このおっさん。聞こえてんのかな?)
もう一度同じセリフを言おうとして、
「隆太君、だったかな。
さっき、キャッチボールをするように言ったはずだけど、何してるの?」
ようやく口を開いたと思ったのだが、求めていた答えではなかった。
「え…キャッチボールはさっきもしたし、俺の球を取れないみたいでキャッチボールにならないし…」
俺は、コーチの気迫に急に怖くなって、段々と語尾が小さくなっていった。
「今の君じゃ無理だよ。キャッチボールもできないようじゃあ、チームにも入れられないよ。」
俺は、その言葉にカッとなって、
「だって、俺の球を取れないおばさんがいけないんだよ…」
必死に言い張ったが、コーチはさっきと変わらない態度で言った。
「それは、君がちゃんとボールを投げられていないからだ。
相手のせいにばかりして、自分はちゃんと出来てるの?
言われたことをちゃんと出来ないようじゃ、ドッジボールは上手くならないよ。」
コーチの言われたことが耳から通り抜けていった。
俺は、じわりとにじむ涙を服の裾で拭って、コーチの顔を見られずに体育館を飛び出した。