Takamatsu Jr. Club ~ドッジボールクラブ~ 第弐ブログサイト

屋島で頑張っているJ.D.B.A.(一般財団法人日本ドッジボール協会)登録のドッジボール・クラブです!

ドッジボール・ラノベ『飛球少年』 その玖 ~兄の存在~

俺の部屋のドアを誰かがノックした。
「おい、隆太いるか?」
兄貴だ。
「うん、いるよ。」
ドアを開けると、兄貴が野球のユニフォームを着たまま立っていた。
「どしたの?」
兄貴は俺の部屋に入り、勉強机の前の椅子に座った。
俺は、兄貴の足元に腰をおろした。
「なぁ隆太、ドッジ、始めたんだって?どーよ?」
「うん、まだ入ったばっかで、俺、メンバー入りしてないんだけどさ、なんか、キャッチボール、上手くなってきてる気がするんだ。
絶対に、メンバーに入りたいんだ、俺!」
「へぇ、キャッチボールね。
そういや、隆太と暫くやってねーよな。
俺、そろそろ部活、引退になるし、時間ある時、練習付き合ってやろっか?」
中学3年の兄貴は、そろそろ引退の時期を控えているが、高校でも野球を続けるらしく、家で自主トレーニングを欠かさない。
そんな兄貴をいつも俺は横目で眺めているだけだった。
「まじで!やった!!
俺、兄貴に練習、見てもらえるの、すっげ嬉しい!」
俺は、兄貴を尊敬しているし、憧れだ。
だから野球をやり始めたのも兄貴の影響だった。
兄貴の背中を見て、いつも追いかけて、でもそれは、同時に俺にとって大きい壁でもあった。
大き過ぎて、兄貴と俺が比べられることになるのが耐えられなくて、それも野球を辞めた原因の1つかもしれない。
ただ、俺は兄貴が俺を見てくれるだけで嬉しくて、構ってもらえるだけで満足していた。
「そういやさっき、隆太の部屋からおっきい音したけど、何やってたんだよ?」
俺の部屋と兄貴の部屋は隣り合わせで、たまに話し声が聞こえてくることもある。
兄貴は、心配して声をかけてくれたのだろう。
「実は、陽平が…多分なんだけど、筋トレを家でこっそりやってるんじゃないかなって思って…だから、俺もやらなきゃ!って思ったんだけど、腹筋してたらベッドに頭ぶつけちゃって。」
「隆太、お前家で筋トレとか珍しいな。
野球やってた頃なんか、家に帰ったらゲームばっかしてたじゃん。
ドッジは本気なんだなー。」
「う、うん。でも俺、別に野球が嫌いってわけじゃないよ!」
「別に責めてねーし。すげぇじゃん。
で、どんな筋トレしてたんだよ?
俺、見てやるから、やってみろよ。」
兄貴が俺の練習を見てくれるってだけで、俺は舞い上がった。
もっと褒めてもらいたくて、兄貴が俺の事を見てくれるから頑張ろうと気合を入れて、先ほどまでしていた筋トレを繰り返した。
しかし、兄貴は顔をしかめている。
不安になった俺は汗を拭きながら、声小さく聞いてみた。
「あ、兄貴…なんか俺間違ってる?」
兄貴は何やら考えて、椅子から立ち上がった。
てっきり俺は部屋を出ていかれるのかと思い引き留めようとした。
しかし、兄貴は俺の側に腰をおろして、俺の腹を触った。
「隆太、お前ここに効いてないだろ。
ただ足とか身体の反動使っても何にも意味ねーぞ。
こうやるんだよ、見てろ。」
俺は身体を起こして正座した。
兄貴は、ユニフォームを脱いで、タンクトップだけになると床に寝転がり、身体を仰向けにして膝を立てる。
そして、上半身だけが持ち上がり、スムーズな速さで腹筋の回数を重ねる。
俺は、兄貴のフォームを見て、
「すげぇ…。」
思わず声に出していた。
あまりに綺麗な腹筋のフォームで、しかも、よく見ると兄貴の腹筋は服の上から薄ら割れ目の筋が見えていた。
「すげぇ!!兄貴かっこいい!俺もそんな風に出来るようになるかな!」
兄貴は、全く息も切れておらず、
「出来るようになるまで、たまに見てやるよ。」
そして、兄貴はユニフォームを手に取って、「まぁ頑張れよ。」と言い残し、部屋を出ていった。
俺は、兄貴のように強くてかっこよくなる、そう決めて新たな目標を胸に抱き、自主トレーニングへのやる気を高めたのだった。